税務調査で横領が発覚した場合どうなるのか?バンダイナムコ6億円着服事件を題材に国税OB税理士が解説

こんにちは、長野県須坂市の植木税理士事務所です。
ちょっとにわかには信じられないですが、バンダイナムコHDの子会社社員が備品のスマホ等をこっそりと売却して7年間で6億円も横領していたとか。
今回は、後任の担当者が気づいて会社の内部調査で発覚したようですが、税務調査で従業員の横領が発覚するようなことも多いです。
その場合、税務・会計処理はどのようになるのでしょうか。
横領が発覚した場合の会計処理と税務処理
今回の事件が仮に税務調査で発覚したとすると、
まず「横領」なので、横領された金品はそもそも会社のものです。よって会社の収入とすべき備品売却収入の計上もれが+6億円(売却時の原価=帳簿価格は0とする)。
また、会社は上記の売却金品を横領されているので横領損失が△6億円。
さらに、会社は従業員から6億円を返済してもらう権利を持つので損害賠償請求権が+6億円。
これらをすべて盛り込んで修正申告となると、法人税が6億円×税額+加算税等、消費税も6億円×税額+加算税等とかなりの税負担になります。
ただし、これは上記のすべてを同時に修正申告に盛り込んだ場合です。収入や損失には計上時期というものがあり、今回の件でいえば、横領額が確定した時点で売却収入計上もれと横領損失は同時に確定しますが、損害賠償請求権については、裁判で確定した時とか、実際に入金された時でOKとなれば、法人税の課税所得は0で修正申告の必要もなしということに。
税務調査では、調査官は当然、横領損失と損害賠償請求権は同時に成立すると主張します。同時なら6億円のおてがら、異時なら法人是認なのでそりゃそうです。
判例や学説入り乱れての喧々囂々の議論が巻き起こることになります。
従業員の横領なのに会社の不正行為による収入除外として重加算税?
従業員の横領が税務調査で発覚した場合にはもうひとつ重要な問題があります。
調査官は、6億円の備品売却収入計上もれについて、これが会社の不正による収入除外であるとして重加算税の対象と主張してくるのです。
これはなかなか会社側からは納得できませんよね。
会社はむしろ被害者で、会社ぐるみで不正行為をしていたわけではありません。
でも調査官は、従業員のした不正行為は会社の責任なので重加算税だと主張してきます。
これ実際には、その従業員の行為が会社の行為と同視できるかが決め手となります。
判例によれば、代表者や役員等の経営に参画している者はもちろん、経理部門で重要なポジションにある課長等でも、その行為が会社の行為と同視されることも。
従業員の行為が法人の行為と同視されるとした判例
従業員の行為が法人の行為と同視されるかについては、①その従業員等の地位・権限、②その従業員等の行為態様、③その従業員等に対する管理・監督の程度等を総合考慮して判断することが相当であるところ、経理担当者が重要な地位・権限を有していたなか、容易に判明する態様の不正を、代表者が請求書等を見ていたにもかかわらず看過していたという事情を総合考慮し、従業員等の行為を法人の行為と同視できるとして重加算税の賦課を認めたもの。
調査官は必ずといっていいほど、上記の判例の③による会社の「監督不行き届き」を持ち出してくるのです。
しかしながら、調査を受ける納税者の立場からすれば、単に監督不行届きというだけではなく、「従業員の行為・勤務態様など総合的に判断」という点に重きをおいて反論していくことになるでしょう。
さいごに
今回の事案では、会社も「組織規模が大きい上、業務も多岐にわたっていたため、結果的に備品の管理を男性社員に任せきりにしてしまった。管理体制が不十分だったのは間違いない」としています。
この従業員の横領行為が会社の行為と同視できるかどうかはともかく、今回の事件からの教訓は…
どんなに信用できる経理担当者でも一人に、長期間、全てを任せない。
中小企業でも大企業でも公益法人でもすべての組織で共通です。